騎士道本を読み過ぎて妄想にとらわれ、旅に出る人物が主人公です。そんな彼が行く先々で繰り広げる奇妙きてれつな物語です。
この本の主人公、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ(本名ではありません)は、睡眠不足と読書三昧がたたって正気を失い、脳みそがからからに干からびてしまいます。そして、騎士道物語の虚構をすべて本当にあったことと思い込むようになります。さらに、彼は自分がその武勇によって王位に就いたかのような気持ちになります。
行く先々で出会う人々は彼を狂人だと理解しますが、本人は真剣そのもので、何のためらいもなく真っすぐに狂った行動に出ます。当然、多くの失敗を犯しますが、たまにミラクルを起こして難を逃れることもあります。ここまで大真面目に狂うと、周りの人々も彼の世界観に流されてしまったり、仲間ができたりするのです。
最初は主人公の行動を愉快な気持ちで読んでいましたが、ページをめくるにつれて、後半部分では彼の信念や真っすぐでぶれない心に対して尊敬の気持ちが生まれてくる自分がいました。この本は読者に笑いを誘うと共に、ほんの少しの勇気を分けてくれるかもしれません。
本書の名(珍)場面は以下のとおりです。
1.田舎の安宿での出来事
・ドン・キホーテの妄想により騎士の叙任式を執り行うことになり、水甕の上に甲冑一式を置き、ドン・キホーテ一人で儀式を始める。しかし、何も事情を理解していない馬方(馬に荷を引かせて運ぶ職業の人)が、自分の騾馬に水を飲ませようとしてその甲冑一式を取り除け遠くを放り投げてしまう。それを見たドン・キホーテは両手で槍をふりかざし、馬方の頭上に打ち下ろしてしまう。
2.風車の冒険
・野原の行く手に立ち並んだ三十から四十の風車に対し、ドン・キホーテは醜怪な巨人であると認識した。そして、盾をしっかり構え、槍を小脇にかいこんで馬と共に風車に突撃してしまう。その際、風が激しい勢いで翼を回転させたため、反対側に放り出され、無残にも野原を転がっていく始末となった。
3.姫君への恋
・ドン・キホーテは思いを馳せる姫君への美の形容を髪は黄金、額は至福の楽園、眉は弧をなす虹、両の目は輝く太陽、両の頬はバラの花、唇は珊瑚、歯は真珠、うなじは雪花石膏、胸は大理石、両の手は象牙などと表す。しかし、当然ではあるが、出自、血統、家柄を他の者に伝えても誰も分からない始末。同行していた者は従士以外、ドン・キホーテは甚だしく常軌を逸していると悟った。
4.死んだ羊飼い
・一人の娘に惚れ込み焦がれ死んだ羊飼いがいた。その羊飼いの友人達は娘を無慈悲な人であると訴えていた。娘は羊飼いの前から姿を消し、彼に不安や嫉妬を抱かせていたからだという。そんな中、娘が現れ、羊飼いの死を私のせいにするのは理不尽であると説明した。それは、自身は自由な人間として生まれ、相手からの想いに対し、応える義理はないという全うな意見であった。そんな娘をドン・キホーテは庇護して場をおさめた。
5.夜の旅籠で起きたこと
・旅籠で働く女中との出来事である。彼女はきれいとは言えない要旨であったが、この宿屋で泊まっていた馬方と夜を二人で楽しく過ごす予定だった。あいにく、この馬方はドン・キホーテと同じ部屋で泊っており、その部屋へ女中がぬき足さし足で入ってきた。そんな宿屋の娘である女中を城主の姫君と思い込み、夜を楽しむ妄想に取りつかれていたドン・キホーテは、その女中を姫君と間違えて抱きかかえてしまう。それに気づいた馬方はドン・キホーテの顎に拳骨を食らわしドタバタな状況に。
6.白装束の男たちとの出会い
・白装束の男たちが殺された騎士を棺に入れてドン・キホーテの前を通り過ぎようとしていた。ドン・キホーテはこれを冒険の一つと思い込み、一戦交えようと立ち向かっていく。白装束の男たちは武器を持たない聖職者であり、ドン・キホーテを人間ではなく悪魔に違いないと思い込んで即座に逃げ出してしまった。ようやく剛勇ぶりを従士に示すことができたドン・キホーテであった。


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