バリエーション山行。略してバリ山行とは、整備された山道(一般ルート)から外れて山を登ることをいいます。このバリ山行は、同じ登山をする者からマナー違反と敬遠される行為でもあります。本書はそのような特異な登山に焦点をあてたストーリーであると共に、読者の人生観を揺さぶるものとなっています。
「アカンわ。ああいうのは。バリやっとんや、あいつ。」と同僚から疎まれながらも淡々と我が道を歩む会社同僚の妻鹿(めが)。妻鹿は会社の中でも異質な存在を放っている。そんな中、本書の主人公である波多は、会社仲間を通じて登山にはまり、バリ山行の魅力に取りつかれるようになる。
本書ではバリ山行含む登山は、日常送っている生活とは切り離して描かれている。そんな中、日常の生活である会社で業績悪化や経営状況を危ぶむ声が蔓延し、人員整理の噂が流れるなど不穏な空気が漂う。
そのような状況の中、波多は妻鹿のバリ山行へ同行し、死の危険を経験する。それを妻鹿は、「本物の危機」と呼ぶ。
本来、日常生活の人生もバリ山行と同じで、決まったルートなんていうものはない。本書でいう「本物の危機」はすぐ隣にあったりする。そして、「本物の危機」に遭遇した時にどうするのかは、目の前の問題に対処するほかはない。本書で登場する妻鹿は、バリ山行でその感覚を養っていたのかもしれない。ただ、人は安心を求めるもの。それは通常の登山と同じく整備された道を歩くことである。だから、妻鹿は他の人から見ると異質に映るのではないか。そして「本物の危機」を経験することで日常の生活を幸福だと思える。「生」を実感できるのであろう。


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