ごく普通の生活を送っていた会社員・山田。本書は、そんな彼が登山の最中に体験する不思議な現象を描いた物語です。次第に登山は過酷さを増し、山田は混沌とした状況に巻き込まれていきます。先の読めない展開に、読者も山田とともに物語の渦に引き込まれていくでしょう。
山田は登山を通して、まるで走馬灯のように自身の人生で経験した後悔や恐怖について振り返っていくことになる。一方、登山では謎の人物の出現があったり、過酷な状況が次々と襲い掛かる。結局、その謎は解き明かされることもなく、ラストには山田がすでにこの世の人物ではなかったことが明かされる。
ストーリーの終盤にようやく山田はこの登山で素晴らしい景色や満足な食事にありつける様子が描かれている。ただ、おそらくこの段階で既に山田はもう亡くなっていたのではないかと思われる。それは、死後にようやく安らぎが訪れたことを意味している。
人生は山と同じで後悔や恐怖、そして痛みが常につきまとうものであり、生きるとはそういうものである。これは、後悔や恐怖、痛みがあるからこそ生きているといえ、逆に安らぎは死後にしかやってこないというメッセージが本書では示唆されているように思う。生きるからには楽しまないといけない、楽しんでこそ人生は充実するというようなメッセージは人類の誰かが作ったのではないか。生きるということはそんな優しいものではないということが本書の最後、山田に訪れた運命が指し示しているのである。


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