本書はアガサ・クリスティーが描くポアロシリーズの1冊です。オリエント急行という車両の中で繰り広げられた殺人事件と、その真相を探偵のポアロが突き詰めていく物語です。
”正義”とは何か、”悪”とは何か、そして最後にポアロがとった行動について、議論がしたくなるような物語です。
※以下ネタバレ含みます
様々な国籍、境遇の人物が居合わせたオリエント急行で、深夜、乗客の1人であるラチェットという金持ちの紳士が殺害されます。そこに偶然居合わせたポアロは、この事件の真相を探ることになります。また、その過程でこのラチェットは、過去に起きた一家の子供を誘拐し、殺害した凶悪事件の犯人であることが分かります。さらにそんな事件を主犯したにも関わらず、お金を使って有罪を免れていた事実も知ることになります。
そして、ポアロが犯人特定の真相に行き着いた時、悲しい真実を知ることになります。それは、同じ車両に乗っていた乗客12人がラチェット殺害を企て、実行に移したということです。この12人は過去にラチェットが主謀した凶悪事件において被害者となった親族や、深い関係にあった方たちでした。
最後にポアロは乗客関係者に2つの解決策を示します。1つは、当初、犯人12人が企てた計画通り、でっちあげの犯人がやったことにするということ、いわばこの事件を闇に葬ることになります。第三者には十分な根拠とその説明をポアロが提示します。2つめは、この事件の真実です。乗客12人が犯人であることを、降車した駅の警察に話すということです。全員が出した結論は、1つ目の解決策とすることでこの物語の幕は閉じます。
本書のメッセージは、”正義”と”悪”に人類皆がコンセンサスを得る客観的は指標はないということではないでしょうか。そしてどちらにするかは自身で判断するしかないということかと思います。見る人によっては、いくらラチェットが極悪人だろうと、殺害してはいけない、司法で裁かれるべきだ。という意見もあるかと思います。ただ、自身が犯人と同じ境遇であれば、同じことは絶対にしないだろうか。という疑問を持つ方もいると思います。私は今回、犯人である12人は、直近では司法に罰せられる機会を逃れられたといえますが、今後、生きていくうえで自身に問い続けることになるのではと感じます。今回のポアロの最後の行動は、自身はあくまで探偵であり、司法にいる側の人物ではないという信念を垣間見ることができたのではないかと思います。



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